石持浅海『心臓と左手 座間味くんの推理』

傑作『月の扉』で活躍した名も無き探偵役”座間味くん”リターンズ。飲み屋の個室で飲み食いしながら、大迫警視から聞いた解決済み事件の話をいともたやすくひっくり返す。安楽椅子探偵ものの短編集。これはすごい。かなりの高品質ですよ本格ファンの皆さん。

一つ一つの分量はとても短く、事件のあらまし→別の解釈という流れがシームレスに続く。その短さの中で180度近いひっくり返しを無理なく何度もこなす力量はさすが。綺麗な装丁とも相まって、とてもシャープな仕上がりの本になってます。

また、事件を起こすのがテロリストや過激派、新興宗教に環境保護団体という、この手の作品ではなかなか見られない相手で、その分事件やロジックに新味が出ているのもプラスに作用してるのではないかなぁ。「貧者の軍隊」での密室ができた理由、「心臓と左手」での犯人の行動原理、「水際で防ぐ」のトンでもない返し、どれも印象深い。

しかし困ったのが最後に収められている「再会」。それまでと趣向が変わり『月の扉』の後日談なんですが…ただの憶測でその人にそんなことを言ってはいけないだろうという思いがどうしてもぬぐえず。”座間味くん”のクールな印象が冷血漢に見えた一編で、なんかもやもやとした読後感になってしまった。