柄刀一『時を巡る肖像』

主人公兼探偵役の職業は「絵画修復士」。ピカソ、モネ、フェルメールなどの実在作品と事件を絡めた6編からなる短編集。

いつもの柄刀作品の不可能犯罪さとはちょっと距離を置いて、どちらかというと芸術家たちの特異な動機、いわば「狂人の論理」に焦点を置かれているような印象。それぞれの名画にまつわる謎物語と現実の事件を結びけていたり、修復士だからこその着眼があったり、やっていることの濃度密度は並々ならぬものあり。

ですが、うーん。「ピカソの空白」に出てくる片目の画家ほど超人然とした個性ならまだ見所があるにせよ、ちょっと事件の面妖さと動機がつり合わない印象がありまして。奇抜なトリックばりばりだとそちらに目を奪われて気にならないんですが、本作は動機にいたる道筋にも芸術の息がかかっているため、どうしてもセットで見てしまうのかなぁ。