米澤穂信『インシテミル』

「時給11200百円」。誤植だろと思いつつ高額アルバイトに応募した12人。「実験モニター」と称されたその仕事の内容は、1週間のあいだ地下の館「暗鬼館」で過ごすというもの。全員が地下に閉じ込められたその時、放送で「ルール」が説明される。破格の時給に加え、ボーナスが出るという。「人を殺した者」「人に殺された者」「人を殺したものを指摘した者」に…。

「館」で「クローズドサークル」である。これがワクワクせずにいられるかってものですよ奥さん。しかも「クローズドサークル内の殺人ゲームを観察する」目的で施設が作られているので、「ローカルルール」と「ガジェット」がてんこもり(抜け道の存在や各種凶器、12体のインディアン人形まである)。これが本格ミステリの持つゲーム性を否応無しに高めてくる。

設定だけを取り出したら、これまでにもトンでもないルールやおかしな館の作品は幾多もあれど、『インシテミル』独特の面白さは「型の包括」にあると思うのである。

「名探偵 皆を集めて さてと言い」みたいなベタな本格の型を客観的に見つつも、もう一回り大きな枠で包んで話を展開させているのだ。メタ的な趣向でありながらも、話の筋はきちんと館の中に納まっている。あまり詳細に書けないのがもどかしいんだけど、この「一回り大きな枠」の構造はミステリのマニアであるほどツボにはまるんではないか。

古典の本格があって、新本格があって、さらにもう一段階本格ミステリを進めたのが、この王道かつ異形なミステリなのでは、とまで思う次第であります。

構造の妙だけではなく、もちろん幾多ものサプライズや伏線の回収にも彩られている。本格ミステリを読むときのあのワクワク感がまた味わえる。間違いなく2007年の収穫となるだろう、本作を読み逃してはならんですよ。

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