森見登美彦『太陽の塔』

モテない主人公の妄想癖が京都のクリスマスに加速する。

2006年版「この文庫がすごい!」1位。森見登美彦のデビュー作。本作で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。

女にもてず、同志の男とつるみ、馬鹿話で盛り上がり、どんどん対・女子力が落ちている京大生の主人公。奇跡的に彼女(水尾さん)ができ、必然的に振られてから、ストーカーまがいの行動を始め、「水尾さん研究」をまとめだす。容姿・行動共に突出せず、頭の中で思考こねくり回しているうちにどんどんおかしな自己正当化へ流れていく主人公。

この「おかしな自己正当化」が話をささえる屋台骨。無駄に多いボキャブラリーとやたら凝った言い回しで語られるどうでもいい話。おかしくておかしくて、この文体はやはり癖になるなぁ。自分がアホなことを言っているのはわかっている、わかっているけどのらずにおれない、そんなシャイさが見え隠れするのも面白さのひとつかもしれぬ。

大暴走するわけじゃないけど、部屋にこもっきりのわけでもない。ニュートラルなテンションで繰り出される青春群像。ジョニーをなだめ、京大生狩りから逃げ、叡山電車の灯りを眺め、部屋で飲んで雑魚寝。どうでもいい事を小さなドラマにしたい日々。

さえない、さえないが、ええじゃないか、ええじゃないか。