道尾秀介『片眼の猿 One‐eyed monkeys』

人は不完全な情報を得ると頭の中で足りない分を補完する。そこに「騙し」が生まれる。

まさに”道尾イヤー”だった昨年度(『向日葵の咲かない夏』『骸の爪』『シャドウ』)を経て、今年一発目の本作。盗聴専門の探偵事務所にやってきた、楽器メーカーの産業スパイについての依頼。「ちょっとした特技」で業界では有名な主人公・三梨には簡単な依頼のはずが…

ケータイ小説と配信されていたこともあり、章ごとのリーダビリティは高い。個性的なキャラも多く、サスペンスの持続も十分で、すいすいと読めて面白い。で、読んでいくとすぐに所々でちょっと不思議な描写があることに気づく。

帯の文句が「絶対見破れない!」とすごい煽りなのだけど、叙述トリック的には割とベーシックな仕掛けなのではないかと。すれっからしの読者が帯の煽りに乗っかってガッツリ読むと、ちょっいと肩透かしになりかねないですね。

ただ、この話が書かれた時の「対象となる読者」はミステリを読みなれてない層だと思われて、その層へは十分な驚きを与えられると思います。仕掛けとテーマが結びつきも程好く処理されてるしね。

それこそ「叙述トリックって何?」な人や、道尾秀介を初めて読む人にオススメな本だと思います。面白かったら『シャドウ』→『骸の爪』→『向日葵の咲かない夏』へどうぞ。まだまだすごいんだぞー道尾秀介はー。