有栖川有栖『乱鴉の島』

火村シリーズでは初の孤島モノ。鴉だらけの島を舞台にして、有名作家(≠有栖)を取り巻く奇妙な人々と、二つの死体。

とにかく序盤はハプニングの連続。火村と有栖が島の民宿にバカンスに出かけるところから始まるのだけど、船頭に勘違いで別の島に届けられ、島に1軒しかない人家には11人も人が集まっていて、家主が隠匿した著名作家でビックリして、帰りの船は来なくって、どうにか泊めてもらって、やれやれと思ったら大富豪のIT社長がヘリで登場するのである。もうなにがなにやら。

しかし全体を通すと「孤島モノ」で「クローズドサークル」にしては派手な展開にはならない。2つの殺人事件を結ぶロジックはさすが手馴れたもの(こんな理由で電話線が切られるなんて!)だけど、もうひとつの線である「人々が島に集まっている真の目的」の不可解さが静かに底辺を流れていて、話に対して機敏な動きをさせないのである。謎が雰囲気に飲まれている、というか。

孤島モノとしては地味だけど孤島でしかできない、ありふれた、しかし奇妙なミステリ。