北森鴻『ぶぶ漬け伝説の謎 裏京都ミステリー』

元広域窃盗犯の寺男・好奇心旺盛の女性記者・トラブルメーカーのバカミス作家が京都の大悲閣千光寺を舞台に、裏(マイナー)京都で事件に巻き込まれまくる『支那そば館の謎』の続編短編集。

どの作品も京都の文化や京都人の人となりをミステリに織り込んでいるのが特徴。例えば表題作は一度は聞いたことがある噂、「京都のお宅にお邪魔して、帰り際に『ぶぶ漬けでもどうです?』と言われたら断らないといけない(お言葉に甘えると『あの人は礼儀知らず』とボロクソ言われる)」という話が核。そんな仕打ち誰もしないらしい(!)のに何でそんな噂が出来たのか?という民俗学的な謎と、グルメな舌の持ち主なのに刺激性の強い毒物で殺害されたフリーライターの事件が見事に融合する手際はさすが。

浪費で吝嗇、いけずで歴史を重んずる。「京都」という都市を一つの閉鎖空間としてミステリに当てはめている本シリーズ。とはいえ気負うことはなく、登場人物たちの軽妙な会話のおかげもあってライトな仕上がり。小料理屋の料理がまたムダに美味しそうなのも見所です。