石持浅海『顔のない敵』

昨年の『扉は閉ざされたまま』の高評価で一躍本格推理の旗手として大注目となった石持浅海。作者のデビューのきっかけとなった、光文社『本格推理』掲載作品を軸にして編まれた短編集。「対人地雷」テーマの6編+処女作短編の計7編。

1997年の処女作掲載から2006年のジャーロ夏号掲載作品まで収められており、デビューから現在までの軌跡を見ることが出来るわけですが、これがそんなに劇的な変化がない。処女作こそちょいと野暮ったい印象あれど、言い換えれば描写もトリックも最初から一定のクオリティを保っていたわけで、これはスゴイことだよなぁ。

「対人地雷」テーマ6編は全てミステリ的な趣向が違っていて、それぞれが別なメッセージを持っているのも特色。NGOの活動内容、地雷除去の困難さ、資金集めに至るまで、対人地雷除去活動における障壁を描き出し、事件が解決を見せるとまた色を変えてこれら障壁が圧し掛かるようになっている。地雷と事件の密接な絡ませ方は、さながら周到な計算の上に立つ工芸品のよう。

ただやはり「最初から変わらない」のは動機や事件後の処理も同様で、既出のあの作品やあの作品みたいなのが多いんだよなぁ。登場人物たちが地雷除去という正義を掲げたとしても、その整理の仕方はちょっとどうなのか…と個人的にうまく受け入れられない部分が多かったのも事実。活動内容が正しい事だけに、このギャップがひっかっかるのだった。

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