大倉崇裕『福家警部補の挨拶』

好きが高じてコロンボのノベライズまでやってしまうほどのコロンボ好きの作者が、真っ向から倒叙ものに挑んだ短編集。帯には「コロンボ、古畑任三郎の系譜」の文字。

犯人は図書館司書、大学教授、女優、酒蔵の社長といった面々で、頭脳明晰のつわもの揃い。そんな犯人の皆さんをこれでもかとネチネチ追い詰めるのは題名にもある通り福家警部補(女性)。ふち無し眼鏡に低身長。どんな人にあっても警察官と思われない容姿、何度徹夜しても乱れない表情、ずっと持ってるのは擦り切れた手帳。それでもキャラ付けは最小限にしてあって、犯人との知恵比べに存分に手間がかけられています。この出来がまた素晴らしい。

倒叙ものは犯行が行われるところから書かれるわけで、読者にもどんなトリックが使われたかは伝わっている。こうなると最大の見せ場は犯人の指摘ではなく、最後に突きつけられる決定的な証拠であり、それが意外であればあるほど読者に驚きをもたらす。この辺の”晴れ舞台”の設け方、伏線の張り方がどれも巧いんだよなぁ。

確かなクオリティであり、シリーズ第1作ということで、今後大化けの予感。『川に死体のある風景』もよかったし、個人的に大倉崇裕株が急上昇しています。今が買い。

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