浅暮三文『錆びたブルー』

『石の中の蜘蛛』『針』に続く、”五感シリーズ”の特別編。男は神の目を持っていた。男は一年前に女を殺した。ホームレスとなって逃亡を続ける男の前にもう1人の男が現れた。頭の中で子供の声が言う。殺せと…。新たな殺人。謎の女。目の前には、赤い残像と、錆びたブルー。

男の一人称かと思いきや、視点は空間や時間を自由に飛び、掴みどころのないイメージの渦が続く。現実なのか幻かわからない世界の中で、かろうじて進む物語。男が目にする赤や青が爆発するイメージを、時に濃厚に時にスイングしながら描く様子はまさに作者の真骨頂。

しかし正直このまま終わったらどうしようと不安すら覚えたほど幻想が続くわけなのですが、ところどころに全体像が見えそうな描写があるので、やはり気になって読んでしまう。徐々に晴れてきた霧を、いきなりバッと剥いで、またバサッとかぶせるような、少々雑にも取れる幕引きではあるのですが、この計算をこんなカタチで一冊書ききれるのはこの人・浅暮三文しかいななぁ。見たこともないミステリを読んでしまった、そんな静かな驚愕の中、本は閉じられたのでした。

錆びたブルー
錆びたブルー

posted with amazlet on 06.08.24
浅暮 三文
角川春樹事務所 (2006/04)