首藤瓜於『脳男』

第46回江戸川乱歩賞受賞作。連続爆弾魔のアジトで見つかった「心を持たない男」。巨漢の刑事と精神科の女医が男の過去を追う。全てが作り物めいた男の本性とはいったい何なのか?というかこの男、通称「鈴木一郎」と呼ばれておりイチローの本名と同じだがいろいろと問題なかったのか?

大きく前半・後半と2つに分けることができる話で、この2つがそれぞれ違った形でスリリングに事が運び、結果として物語全体がテンションを保ったまま終えることに成功していますなぁ。

鑑定結果では全ての能力が平均値、紳士的に振舞うが感情を出さない、手ごたえがまるでない男。前半では男の本性を刑事と医者がそれぞれのやり方で追い、一つづつ薄皮が剥れるようにその過去が現れていく。僅かな手がかりのために女医が冬山登山までやりだすのはちょっとどうかと思うがまぁいいか。それはそれでスリリングだし。

後半は男が入院する病院に爆弾が仕掛けれ、遂に「鈴木一郎」が覚醒する。爆弾魔vs警察+「鈴木一郎」という知恵比べに見所が移り、ラストまで一気に。敵か味方か「鈴木一郎」。

難を言えば「欲張り」。上記ストーリーに加え、自閉症や脳についての記述、爆弾の知識、連続爆破事件のミッシングリンクなど、各要素が雑多に盛られた印象もあり。にしてもデビュー作でここまでやれれば満足でしょう。タイトルもこれしかないなー。