2月 092006
第一回本屋大賞受賞、そして先ごろ映画化された本作。感動した・泣けたという触れ込みをあちこちで見て、こりゃすごい泣かせどころがあるのかしらん、と読んでみたら、とても静かな話でした。人が死ぬ話だから泣ける、というわけじゃないのですよ!
家政婦の私が担当になったのは元数学博士の家。離れに一人で住む博士は、昔交通事故にあって脳を損傷し、以来80分しか記憶がもたないのだった。ここに家政婦の息子(博士に「ルート」とあだ名を付けられる)が加わり、3人の静かな日常が生まれる。
なにぶん数学者ゆえ、何事も数学に結び付けて解説をはじめる博士。普通理系がこんなことをするとうざいことこの上ないはずですが、博士の丁寧な物腰や美しいボキャブラリーによる話術は、数学の世界に「美しさ」が存在することを説く。でも次の日になると家政婦さんの顔を忘れる。このギャップを数々のエピソードで表現することで、徐々に博士の人となりを読者に浸透させていく。読んでるうちに博士の理解者になっていくので、いちいち色々と愛おしくなってしまう。
そして特筆すべきは「野球」の存在。ルートはタイガースファンなのですが、博士も野球好きで江夏の大ファンなのだった。数学ばかりだと平坦になりがちな話が、ここで数学の「静」と野球の「動」が緩やかに融合して物語が深くなる。野球はデータ(数字)も豊富なので数学との相性もよく、これはいい要素だなぁと思った。
真理と美しさを求める数学の世界と、純粋で聡明な博士の世界を、暖かく静かに結びつけることで導き出す深い余韻。これは、染みるなぁ。
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