西澤保彦『パズラー 謎と論理のエンタテイメント』

意外なことに西澤保彦初のノンシリーズの本格ミステリ短編集。『夏の夜会』で見せた曖昧記憶の暗い穴「蓮華の花」、もはやスタンダードの西澤流反転「卵が割れた後で」、ただのかくれんぼのはずが「時計じかけの小鳥」、都筑道夫へのオマージュ「贋作「退職刑事」」、大仕掛けの大胆さはまさに「チープ・トリック」、アリバイがあるのに主張しない犯人の恐るべし意図「アリバイ・ジ・アンビバレンス」の6本

副題が「謎と論理のエンタテイメント」とあるようにまさに都筑道夫リスペクト。論理重視のパズラー小説が6本立て続け。参加型の犯人当てではなく、目の前で繰り広げられる論理のアクロバットを客席砂被りでとくとご覧あれの一冊。ノンシリーズなのでキャラでなく話の筋に注目できるのも本気勝負のパズラーを感じさせます。個人的には「アリバイ・ジ・アンビバレンス」の構図がもう衝撃です。あんなことになっていたなんてなー。

デスクトップでパニックになるイタズラ

何年か前に思いついて後輩に仕掛けて成功したイタズラなんですが、人に話すと割と受けがいいショートドッキリなので、今日は画像付きでご紹介しようと思います。

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1. ターゲットとなるPCを探します。ちょっと席を立って帰ってこないがあと30分くらいで帰ってくる、というのが理想です。できれば重要な作業をしていそうなのは避けましょう。あいつさっきまでフリーセルしてやがったな、ぐらいがベストです。
 
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シオドア・スタージョン『輝く断片』

スタージョン初読みなのにいきなり非SFよりの短編集はどうなのか、という話もありますが、いやー面白かった!というか切ない。男たちが切なすぎる…。

解説でも言われているのですが、普通のなんの罪もないはずの中年男性がちょっと踏み外した勢いでガタガタと狂っていく。サイコっぽい展開もあるのですが、「マエストロを殺せ」(ミステリとしても良作!)や「輝く断片」なんかは文体の妙もあって、面白くも切ない読後感になっているのだった。

切ない切ない言ってますが、収録作の半分はその切なさで、もう半分くらいはまさに”奇想”の嵐。初めの3編(「取り替え子」「ミドリザルとの情事」「旅する巌」)といったSF趣向を絡めたものは思わず笑ってしまう場面も多数。こうして全体眺めるとスタートで飛ばして最後をグッと締める配置になっていて、いい仕事してるなぁと思います。

天野頌子『警視庁幽霊係』

警視庁幽霊係

被害者の幽霊と話ができるため現場に引っ張りだこの柏木雅彦警部補(女子高生の守護霊付き)。胃痛でコーヒーも飲めず、被害者の霊に憑依され、怪しい霊能者に狙われて、今日も現場で幽霊の声を聞く。

テンポ良くゆるーく進む展開。幽霊+ミステリものとしては概ね普通ですが、幽霊がホントのことを言うとは限らないというところが割りと大変。幽霊の出現や移動の決まりごとをもっと事件に絡めると面白いかもです。話的に都合が悪くなりそうだと”気”のせいだったりするしなぁ。

浅暮三文『左眼を忘れた男』

左眼を忘れた男―I wanna see you

ミステリーともファンタジーともホラーとも思える異色ブレンド作。後頭部殴打により植物状態の主人公。しかし外の世界が見える。殴打時に左眼が飛び出し、外をさまよって映像だけ送っているらしい。左眼によって行き着く、事の真相とは?『カニスの血を嗣ぐ』『石の中の蜘蛛』に続く五感シリーズの三作目、「視覚」。

左眼自身は画を送るだけで自分の意思で動けないのだけど、動物にくわえられたり人の衣服に乗っかったり雨に流されたりしてどんどんあちこち動いていく。しかし移動先には後頭部殴打の真相めいたものがあり、不思議な力が働いているのでは…という展開。高さ3センチから見える世界はどれも巨大で、一種酩酊した描写が面白さを増す。

ラストへ行くにつれて左眼の冒険から主人公・犯人の意識へ話の中心はシフトしていき、そこから人を食った展開へとなだれ込む。まさに「悪酔い」のカクテル。うーん、真面目にミステリと思って読んでたせいかちょっと乗り切れなかったのですが、ぐらぐらする足場を楽しむ本ですね。見えて、見られて、視覚は渦を巻く。