P.G.ウッドハウス『比類なきジーヴス』

「参ったなぁ、ジーヴス。いったい君の知らないことはあるのか?」
「申し上げかねます」

主人のバーティーには表向き従順で、どんな揉め事も手際よく解決、でもファッションセンスは譲れない、至上最高執事『比類なきジーヴス』。おもしろいなぁ。語り手は主人のバーティーなんだけど、知的な語り口にみせて中身はおバカなのがたまらん。バカシブ。どんなブサイクにも恋をする友人のビンゴも頭悪すぎ。

だからってバカ一直線に落ちるとたぶんつまらないんだろうなぁ。一線ぎりぎりで踏みとどまる危うさはまさに曲芸師。パターンが一定なのが難と言えば難だけど、新聞の四コマみたいなゆるいマンネリ感まで到達すると味が出てきます。

山田 浩子 ほぼ日刊イトイ新聞『ほぼ日手帳の秘密―10万人が使って、10万人がつくる手帳』

ほぼ日手帳の秘密―10万人が使って、10万人がつくる手帳。
山田 浩子 ほぼ日刊イトイ新聞
幻冬舎 (2005/11)
売り上げランキング: 78236

去年から「ほぼ日手帳」を使っています。1日1ページ、という構成は「そんなに書くことあるかなー」とか思ってたのですが、1年振り返ってめくってみると意外と書き込んでいたりする。スケジュール帳にもなればネタ帳にもメモにもなんでも使える奥深さ。その自由度の高さから、「他の人はどう使ってるんだろうなぁ」と気になる手帳でもあります。

ほぼ日手帳初の公式本『ほぼ日手帳の秘密』はそんな声に答えてか、43人(!)の使用例インタビューをカラーで紹介。罫線を大胆に無視したり、交換日記にしたり、写真を貼ったり…とユーザの「自由」がこれでもかと連発。43人でも足りないなー。他に「糸井重里インタビュー」と「ほぼ日手帳の歴史」の3部構成なのですが、使用例インタビューがもっともっと見たかった。奥が深いなぁ。

2006年版も購入したので来年もお世話になります。まさに今追加販売の真っ最中なので、買い逃し方はこれを機にどうぞ。

そうそう、この本、カバーがほぼ日手帳のカバーを模しているわけですが、これをめくるとまたビックリ、中身もほぼ日手帳の中身を模しているのです。手元にある方はお試しを。芸が細かいなー。

竹内真『カレーライフ』

「好きな食べ物:カレー」と事あるごとにプロフィール欄に書くほどカレー好きな僕なわけですが、『カレーライフ』はホント、全てのカレー好きに読んでもらいたいですよ。もーこれを読み終わるまでに何杯のカレーを食べたことか。食べたくて食べたくてしょうがないんだもの。

洋食屋だった祖父の通夜の晩、幼かった僕たち5人の従兄弟は「大きくなったらカレー屋になる」と約束をした。あれから幾年月たって今は19歳。それが「親父の勘違い」によって現実になってしまった。従兄弟たちを集めて、祖父の味を再現して、カレー屋になるために、想像を超えた冒険がいま始まる。

従兄弟達を訪ねて地球上を行ったり来たり。出会って別れてカレーを作ってと、まさにカレー・ロード・ノベル。まさかこんなにドラマチックな青春小説が生まれるなんてと大感動ですよ。もうカレーを求める浪漫がたまりません。ガンジス川にゆっくりとボートをこぎ出して、地平線から昇る朝日を見ながら「俺は、カレーが好きなんだ」って呟いたりするのよ!あぁ!

一つの鍋に自由に食材を飲み込んで、うまみに変えるカレーは和の象徴なのかもしれない。あぁカレー食いたい作りたい。

米澤穂信『犬はどこだ』

米澤穂信流ハードボイルド『犬はどこだ』。元銀行員が社会復帰のために開いた犬探し専門の調査事務所。しかし最初の依頼はOL失踪事件と古文書の解読。しぶしぶ調査を進めると、二つの依頼は巧妙にリンクして…。

熱くもなく悲劇でもない、ニュートラルな再出発を目指す主人公であります。静かなテンションに会話の遊びを乗せる筆力はさすがの米澤穂信でして、安心して読み進められる。

本作しかり古典部シリーズしかり、探偵が徐々に「目を覚ます」様子が描かれているわけですな。かたや本格方面、かたやハードボイルド方面。本作のラストのあの余韻が、探偵の成長に繋がるとなれば、このシリーズの今後も期待大でございます。