いとうせいこう『ボタニカル・ライフ―植物生活』

ボタニカル・ライフ―植物生活
いとう せいこう
新潮社 (2004/02)
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狭さこそ知恵、貧しさこそ誇り。庭のない都会暮らしで植物を愛でる自称「ベランダー」のいとうせいこうの植物生活エッセイ。第15回講談社エッセイ賞受賞作。

広い庭を扱うガーデニングを横目に見ながら、狭いベランダを駆使して植物を育てる自らを「ベランダー」と呼ぶ。ベランダーの一人称は「俺」であり、強い子になれと鉢を西日に送り出したり、枯れた植物をなかなか認めようとしなかったり、トイレにレモンポトスを伸ばし放題にしたり、煙草を吸いながら蓮の泥をかきだしたりなど、「園芸家」という日向なイメージから遠くいて、もはや園芸ヤンキー、孤高の不良ぶりです。

それでも植物の愛がそこかしこから伝わってくる。無償の愛、というより、嫉妬や羨望であり、彼らの命の手綱を握っておきながら、彼らは生命は自分の手の届かないところにいることを感じて憧れる。その様子は強がりでいじらしい。植物を愛でるとは、なんと切なく愛おしい様なのか!

深まる冬に向けて春の緑が待ち遠しくなる一冊。落ちているアロエさえ拾い、植木市に色めき立ち、諦めかけてた鉢から若葉が覗いたのを発見するや狂喜する、ハードボイルド・ベランダー。これはもはや、植物に対するツンデレと言っても過言ではない。