西澤保彦『腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿』

神出鬼没の公務員、櫃洗市市民サーヴィス課出張所の腕貫の男。特徴なし面白みなしの役所仕事で安楽椅子探偵をやってのける。

全7編の短編集。1作目「腕貫探偵登場」の時は無愛想にヒント一つ出して、相談者が勝手に仮説を思いつくという『完全無欠の名探偵』的な展開だったのが、後半に行くにつれて業務に慣れたのか段々と饒舌になっていく腕貫男。

困ったこと/変なことが起きて→相談して→饒舌に答える、のような問題→答え合わせのようなまっすぐな図式より、無愛想ヒント一つの展開の方が難しいなりに捻りようがあって好きだったんだがなぁ。というわけで徐々に腕貫男のスタンスが揺れていく中、ちょうど真ん中に位置する「喪失の扉」がバランスが取れたのか出色の出来。押入れの中から見つかった大量の学生証と履修届。しかも二十年前のもの。身に覚えがないんだが何だこれは?という発端から背筋が凍る展開に。

奇想は相変わらずの西澤節なのですが、「役所仕事の腕貫探偵」というキャラがもっと生きる様を見たかったなぁ。もっと光を。もっと腕貫を。