東川篤哉『密室に向かって撃て!』

東川篤哉、烏賊川市シリーズ2作目。今度は衆人環視の密室に銃声が響く。天然とツッコミの女子が増えて会話の小ネタが回りやすくなりました。肝心の事件の方はよく考えられてますが現実性はなかなかに無理無理。でも楽しい。このテンションだからこそあのトリックでも読みやすくなってるのかも。

池谷裕二・糸井重里『海馬―脳は疲れない』

来月30歳になる予定(未定)なんですけどね、今これ読んでよかったなぁ。「30歳から頭はよくなる」「海馬は増やせる」「脳はいくら使っても疲れない」…池谷 裕二・糸井重里『海馬―脳は疲れない』で、目からウロコが溢れ出る。

脳の研究者・池谷氏と、脳の使い手・糸井氏の脳対談は、まるでメカニックとドライバーがマシンについて語らっているようなシチュエーション。お互い共通の認識を持ちながらそれぞれ歩み寄っていく様はとても刺激的で面白い。

糸井氏がちょっと関係ない話題のボールを打っても、池谷氏がキャッチして脳の仕組みを投げ返す。ノックを繰り返す度に、「そうか!」と互いに気がついて、二人の守備範囲が広がっていく。読者もそこに乗っかって、ゆったりした満足感に浸れる対談に仕上がってます。

一読すれば脳ってやっぱりそうなんだよね!とスッキリ爽快。悩み解決のコツまで載ってます。特に今年30歳になった’75年生まれの皆様、そして来年30歳になる’76年生まれの皆様におススメ。読むと勇気がでまっせー。

鳥飼否宇『昆虫探偵』

ある日起きたらゴキブリになっていた…という出だしだけど『変身』ではなくて鳥飼否宇『昆虫探偵』。熊ん蜂の探偵とゴキブリの探偵助手が昆虫界の難事件に立ち向かう短編集。文庫は書き下ろし一編がプラス。

昆虫なのに日本語喋ってたりとか、異なる虫が一緒に行動しすぎとか、探偵事務所構えるってどこやねんとか、まーツッコミどころは多いのです。で、なにぶん昆虫の世界なんで、動機に怨恨とか金目当てとか一切なし。「生き延びる」か「子孫を残す」の二つか一つ。これに擬死や交尾や擬態などの昆虫の特性を交えて、密室や犯人当てを構成していくんだからなかなかに恐れ入る。短編タイトルも「昼のセミ」「生きるアカハネの死」「吸血の池」などタイトルをもじっており、内容も軽くなぞらえて作られているのが楽しい。

文庫書き下ろしの第六話「ジョウロウグモの拘」の犯人指摘のプロセスが一番キレイだなぁ。単行本のみ読んでる方、お見逃しなくですよ。ファーブルになりたかった男の探偵記。世界最小の不可能犯罪が幕を上げる。

水道橋博士『本業―タレント本50冊・怒涛の誉め殺し!』

水道橋博士『本業―タレント本50冊・怒涛の誉め殺し!』はタレントによるタレント本書評。日経エンタに連載されていた「本と誠」をベースに、著者がタレント本に書いた解説をボーナストラックとして収録。『お笑い男の星座』(→感想)でも発揮した水道橋のルポライター気質がここぞとばかりに大奮発。

普通の書評と一線を画く目的で交流録や現場の裏話も多く含まれており、そのため本のセレクトもちょっと偏っている(本のカバーに取り上げた本が全部書いてあります)。次は木村拓哉『解放区』に、という編集者のオファーを断って山田かな子『せんせい』にしちゃうくらいである。その分、好きな人・好きな本を取り上げているので、語り部は生き生きと、絶妙に引用し、笑わせ泣かせ感嘆させ、最後にすっと差し出して薦めるのだ。これが1冊あたり4ページでぎっしり。芸能知識の満腹中枢にて針が振り切れるほどの満足感です。

タレント本なんて結局売名行為や金儲けの一手段でしょ、と正直思っていたのだけど、『本業』を読んでちょっと思い直したなぁ。激ヤバエピソードだったり思わぬ文才があったりで、テレビや雑誌では語られない芸能人の等身大を映す、まさに「確定申告」。タレント本はメディアで表から見る芸能界の、その裏を覗き込む鏡でもあったのだ。水道橋博士の案内で行くタレント本の世界。ご堪能くだされ。

佐藤雅彦『四国はどこまで入れ換え可能か』

ネット配信されていたアニメーション「ねっとのおやつ」の文庫化。ほのぼの漫画にシャープな発想。

『イメージの読み書き』
『プチ哲学』
など、佐藤雅彦には思考の盲点をつかれることが多く、ハッとさせられることしばしば。この「思考の盲点をつく」という行為は「笑い」にも通じるわけで、本書にもその盲点が山盛りで楽しい。ベタなネタもあるけどそれも緩急と思えば。「いったいなにがあったのか!」「狼煙」「人生は選択の連続」「内面的なサイコロ」あたりがお気に入り。