我孫子武丸『弥勒の掌』

新興宗教・警察・汚職・復讐・捜査小説なんて言葉が帯に踊っていて、横山秀夫でも目指し始めたのか?と思っていたら!やられたー。ベーシックな仕掛けなんだけど、サスペンスフルな展開に引き込まれているうちにポイントをうっかり通り過ぎるように計算されてる。まさに新本格の匠の技。書き下ろし長編13年ぶりは伊達じゃない。タイトルのつけ方もうまいなー。

大橋 禅太郎+倉園 佳三 『すごいやり方』

さくっと読めちゃうけど実践してみないと本の真価が問われないのね。想定やメソッドのシンプルさから、コーチングの真ん中だけ取り出して見せてくれる手腕は良。なんかできる気になる時点でこの本の勝ちか。明日からなにかやってみるかしらん。

石持浅海『扉は閉ざされたまま』

ドアを破らない密室もの!

久しぶりに開かれる大学の同窓会。成城の高級ペンションに七人の旧友が集まった。(あそこなら完璧な密室をつくることができる―)当日、伏見亮輔は客室で事故を装って後輩の新山を殺害、外部からは入室できないよう現場を閉ざした。何かの事故か?部屋の外で安否を気遣う友人たち。自殺説さえ浮上し、犯行は計画通り成功したかにみえた。しかし、参加者のひとり碓氷優佳だけは疑問を抱く。緻密な偽装工作の齟齬をひとつひとつ解いていく優佳。開かない扉を前に、ふたりの息詰まる頭脳戦が始まった…。

本格推理はこんなことができるのか。密室状態を破ることなく進む犯人対探偵の倒叙もの。彼はなぜ部屋から出てこないのか、という疑問をベースに知と知が生み出すこのスリル。推理の穴や動機の腑に落ちなさはともかくとして、ここは思考遊戯の極みを楽しみたい。いやー、面白かった。

伊坂幸太郎『死神の精度』

「俺が仕事をするといつも降るんだ」 クールでちょっとズレてる死神が出会った6つの物語。音楽を愛する死神の前で繰り広げられる人間模様。『オール読物』等掲載を単行本化。

切れるセンス。回る台詞。いつもの伊坂幸太郎の姿がそこにあるのだけど、読み終わった後のこの物欲しさはなんだろう。死神のもつ”ルール”の特殊さに、短編毎に変わる設定に、隠し味のように効いてくる伏線に、もっともっとと期待する、人間の浅ましさを死神が嘆くのか。死神視点の人生論。NO MUSIC NO LIFE。