小路幸也『Q.O.L』

「殺したいやつがいるんだ。」
殺し屋だったという父の遺言で、拳銃を昔の相棒に届けることになった龍哉。同行を申し出た同居人の光平とくるみには、その拳銃を使って「やりたいこと」があった。3人の思惑をのせてサンダーバードは走る。新鋭が描く、痛みと癒しの青春ロードノベル。

拳銃と車を手に入れた若者三人のロードノベル、と帯で見て、暴力かハイテンションかと思って読み始めたら、穏やかでニュートラルで、そしてとてもクレバーな話だった。

三人それぞれが親兄弟にトラウマがあり、それはとても深く暗いのだが、ただ荒れる時は過ぎ「信頼できる仲間」という安息を得てから物語が始まるため、躁すぎず鬱すぎずのキャラ造形がとても大人に映る。かといって物語に起伏ないわけでは全然なく、ロードノベルの道から外れだしてからの展開は予想を上回る着地点でほぅと嘆息。いい!

Quality Of Life,Quest Of Love. 冷えすぎず熱すぎず、僕は僕の声を聞く。

綾辻行人『暗黒館の殺人(上下)』

やっと読了。次にカミさんが読むので明言は避けるものの、長い!ひたすら長い!

旧家の怪しげな風習に翻弄される主人公 → 館の中の誰かに詳細を尋ねる → 誰かが思わせぶりに答えようとする → 邪魔が入って中断 → また誰かに聞きに行く → また邪魔が入る → また怪しげな風習が登場 → 誰かに尋ねる → 邪魔が入る → 死体が!

もう!もう!

麻耶雄嵩『蛍』

梅雨。大学のオカルトスポット探検サークルの六人は、京都府の山間部に佇む黒いレンガ屋敷「ファイアフライ館」へ、今年も肝試しに向かっていた。そこは十年前、作曲家でヴァイオリニストの加賀蛍司が演奏家六人を惨殺した現場だった。事件発生と同じ七月十五日から始まる四日間のサークル合宿。昨年とちがうのは半年前、女子メンバーの一人が、未逮捕の殺人鬼“ジョニー”に無残にも殺され、その動揺をまだ引きずっていたことだった。ふざけあう悪趣味な仲間たち。嵐の山荘で第一の殺人は呪われたように、すぐに起こった―。大胆にして繊細。驚きに驚く、あざやかなトリック!本格ミステリNo.1の傑作『鴉』から7 年。鬼才が放つ新たなる野望。

やられた。「嵐の山荘」もので、仕掛け本体もオーソドックスなはずなんだけど、もう見せる魅せる!演出と使用法の勝ちだなぁ。背景・発端・事件の解かれ方・サプライズからエピローグまで、完成形がとても美しいミステリ。巧みな企みに驚け。